【インタビュー】安心して食べられる商品をお客様の元へ【ケンコー食品工業株式会社】
2020/07/31 00:00
今回お話を伺うのは、宮崎県都城市で味噌・醤油の醸造業を行なっている「ケンコー食品工業株式会社」代表の吉田 努さん。 味噌・醤油の醸造だけでなく、原料となる大豆の栽培・加工を行っており、最近では宮崎県都城市の在来品種である「みやだいず」を使った新しいプロジェクトも行っています。

代表取締役 吉田 努 氏

安心・安全を追求してきたからこそ、今がある。

-- 事業内容について教えてください。 吉田:弊社は、味噌・醤油の製造業を中心に行っています。お味噌屋さんやお醤油屋さんというと、創業百何十年といった歴史の会社が多いのですが、そんな中でも弊社は昭和47年創業と、とても歴史が浅い会社です。お味噌は仕込みから数か月、醤油は1年半ほどかかってしまいます。そのことが新規参入を妨げていると思います。 弊社は業務用食材も販売していますが、一般家庭の方にもご好評いただいています。業務用食材と聞くと安いイメージがあるかもしれませんが、弊社の商品は一般的な商品と比べるとそこまで安くはありません。それは、味噌や醤油の原料となる大豆を、自分たちで作っているからです。例えば、ワインやビールを醸造する場合、最初に土壌づくりから行うのが基本なのですが、味噌や醤油に関しては、そういった取り組みが少なく、日本でも弊社を含めて数件しかありません。 -- 原料づくりを行うようになったキッカケを教えてください。 吉田:きっかけは、父が創業した約50年前の時代背景が大きく影響しています。当時は高度成長期だったため、経済の成長が優先される一方で「水俣病」や「四日市ぜんそく」といった工業問題や食品公害が大きな問題になっていました。当時父は大手メーカーの製造責任者として勤めていたのですが、私や私の妹が生まれる時期に、食品の製造過程で大量に使用される添加物を見て、「これを子供に食べさせるのか」という大きな葛藤があったそうです。そのことが創業するきっかけとなりました。 醤油や味噌は毎日使うものなので、せめて安全なものを…という思いで、添加物を使わずに製造するというところからスタートしました。 当時は、スーパーやお客さんに全く相手にされませんでしたし、添加物を使っていないことによって、カビが生えたと返品されたこともありました。昔は食品添加物が多く含まれていたので、何日も食べ物を放置すれば腐ったり、カビが生えるという観念が一般的ではなかったんです。 そんな中、有吉 佐和子さんという作家の方が、添加物や公害について書いた「複合汚染」という本が読売新聞に掲載されました。その頃から世の中の関心が変わり、食べ物にも気を使わないといけないという考えが浸透していきました。添加物に対して関心を持つお客さんが増えるにつれ、会社の売上も増えていき、今まで支えられてやってきました。 安全を追求すると、どこでどういう風に作られたか分からない原料を使うより、自分たちで原料を作ったほうが安全だという発想になり、約30年前から取り組みが始まりました。 -- 最近では、どのような取り組みを行っていますか? 吉田:ここ4~5年で宮崎大学の農学部と都城市と連携し、都城で発見された「みやだいず」を都城や宮崎で広めていく取り組みを行っています。「みやだいず」は一般的に流通している商業種の大豆とは違い、昔都城や宮崎県内で作られていた在来種の大豆です。収穫できる量は少ないのですが美味しいと評判の大豆です。現在では30ヘクタールで栽培し、約60トン収穫しています。この取組を進めて、南九州を大豆の産地にしようという「みやだいずプロジェクト」を立ち上げています。 -- 味噌や醤油でイチオシの商品はありますか? 吉田:今の時代、味噌や醤油は徐々に売れなくなってきています。小学生とその親御さんと一緒に味噌作り教室を行うことがあるのですが、「今日お味噌汁を食べたか」と聞くと、20人中2~3人くらいしか食べている人がいません。人口減少に輪をかけて、味噌の需要が減ってきていることが分かります。その一方で、健康志向の方も増えてきているおかげで醤油や味噌の原料である「大豆」の需要が増えてきています。 大豆というと、一般的には水煮や蒸し大豆があるのですが、大豆は煮る工程で旨味が全て逃げていってしまうんです。弊社の大豆は、大豆を袋に詰めた状態で、袋の中で蒸すことができるので、大豆の旨味が一滴も逃げずに非常に美味しく食べることができます。一般的な商品と比べると少し高いですが、それでもかなり売れていますね。 -- 今後の展望についてお聞かせください。 吉田:全てものが自分たちの知っている畑、そして知っている人達で作られていく。最終的にはそういった安全を、お客様にお届けできればと思っています。その為、価格は決して安くはないのですが、「誰が作っているの?」と言われたら、直接農家さんに行くことも、栽培記録や残留農薬の結果をお見せすることもできますし、「この大豆はどこで取れたの?」と言われれば、この畑で取れたんだよということまで、皆さんにちゃんとお知らせすることができる。 それが安全に繋がるのであれば、私達はそこを突き詰めていかないといけない。そういう気持ちでやっています。売上に繋がれば申し分ありませんが、やはり継続していくしかないと思っていますし、続けていくことが信頼に繋がっていくと思っています。 原料となる大豆も、良い品質であればあるほど良いですが、台風などによってそうで無い大豆も沢山できることもあります。ですが、そういった大豆も全て買い取ります。でないと農家さんが潰れてしまうからです。農家の方の所得が増えて安心して作れるというのも私たちの仕事であり、役割でもあります。